「ねことことり」
作:たてのひろし
絵:なかの真実
合計点:13.4(2024年6月現在)
ehonnavi
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出版社:世界文化社1,500円
ISBN9784418228065
「ねことことり」の注目ポイント
- 第28回日本絵本賞、第16回MOE絵本屋さん大賞、第5回親子で読んで欲しい絵本大賞など数多くの賞を受賞
- 細密画家の新生・なかの真実が紡ぐ、心あたたまるファンタジー
- 子どもから大人まで心に響く一冊
「ねことことり」はこんな人にオススメ
- 心温まるストーリを読みたい人。
- 美しい絵が好きな人。
- インテリアとして絵本を飾りたい人。
「ねことことり」のあらすじ
↓ここから本文引用今日は暖かくていいお天気です。
猫は家中の窓を開けて、よく冷ました紅茶を飲んでいます。
ぶるるる・・・・。
遠くから車の音が聞こえてきました。
猫の家の前にトラックが止まり、こぶしの木の枝がどっさり下されました。
「やあ、おはよう。今日もよろしく頼むよ!」この小枝を綺麗に束ねるのが猫の仕事です。
「おはよう。今日もたくさんあるね・・・・。夕方にはできてるから」
「さ、やるか」猫が仕事を始めると、窓の外からぴるる ぴるる、と鳥の歌声が聞こえてきました。
「へぇ、綺麗な歌だなあ。こっちにくるぞ」
小鳥が窓に止まりました。すると小鳥は困った様子で猫に話しかけました。
「おはようございます。・・・・お願いがあります」
「どうしたの?」
「そこにある小枝を少し分けてもらえないでしょうか?」
「ええと・・・・うーん、これは今日中に束ねて、今日中に収めなきゃいけないんだ。そうしないと僕はお金をもらえないんだよ。」
「一本でもいいので、分けてもらえませんか?」小鳥は今にも泣き出しそうです。
「そんなに困ってるの?」
「はい。小枝が7本くらい必要なんです。」
「よっぽど、困っているようだね。それなら、一日一本を持って行っていいよ。だから明日もおいで。」
「本当ですか?ありがとうございます!」
小鳥は猫から小枝を一本もらうと、大きな声でぴるる ぴるる、と歌って脇目も振らずどこかへ飛んで行きました。
次の日の朝、猫が窓を開けると、森の向こうからぴるる、と小鳥の歌が聞こえてきました。
「猫さん、おはようございます。今日も小枝を一本もらってもいいですか?」
「うん、好きなのを持って行っていいよ」
「ありがとうございます!」
「君のうたは素敵だね」
「そうですか?私はこの歌しか歌えないんですよ」
そういうと、小鳥はぴるるるるる、と少し長めに鳴いて見せました。」
「うんうん、いい歌が。紅茶が美味しくなるし、景色まで明るく見えるくらいだよ。魔法みたいな歌だ」
「猫さんの家はいい匂いがします。私はこの匂いに誘われてきたのです。花の匂い、紅茶の匂い、みんなとってもいい匂い」
「そうなの?」
「猫さん、この匂いがわからないのですか?」
「うん、どうも僕は匂いがわからないみたいなんだ。でも、僕はこぶしの小枝も、花も、紅茶も100通りの匂いを想像できるよ」
「わあ、すごい!私には一つの匂いしかわかりません」
「いい匂いがわからなくたって君の素敵な歌が聞けたら十分さ」
次の日も次の日も、小鳥は小枝をもらいにやってきました。
一言二言話をするうちに猫と小鳥はすっかり仲良しになり、毎日がうんと楽しくなりました。
7日目の朝がきました。猫が窓を開けるといつものように小鳥が止まりました。
「おはようございます。最後と小枝をもらいにきました」
「うん。この枝はどうかな?」
「はい。猫さん、本当にありがとう」
「君の役に立ったならよかったよ」
小枝を一本加えると、小鳥は一目散に飛び立ちました。
「猫さん、さようなら」
「うん。元気でね」
猫は忙しそうな小鳥に、またきてね、と言えませんでした。
小鳥が来なくなって、ずいぶん月日が経ちました。
猫の心にはぽっかり大きな穴が空いていました。
猫は毎日、ぼんやり窓の外を眺めて小鳥の素敵な歌を思い出したり、小鳥が話してくれた花や紅茶やこぶしの小枝の匂いを想像したりしていました。
仕事も捗らず、もらえるお金は少し減ってしまいました。
そんなある日、遠くから聞き覚えのある懐かしい歌が聞こえてきました。ぴるるるる・・・・
猫は窓辺に駆け寄りました。
あの小鳥です。なんと、他に4羽もいます。
「小鳥さん!」猫は体がぎゅっと熱くなりました。
「猫さん!久しぶりです!」
「君の家族かい?」「はい!猫さんから譲ってもらった小枝で家を作って、この通り子供が生まれました。わたしたちはこぶしの小枝がないと、家を作れないのですが、森に一つもなかったのです」
「えっ、そうだったの・・・・」
「わたしたちは猫さんにお礼をしたくて、ずっと薬草を探していました。この花の匂いを嗅ぐと、匂いを感じるようになるそうです。けれど、本当に効くかどうかがはわかりません。」
そう言って、小鳥は猫に花束を渡しました。
「なんて綺麗な花。みたこともないよ。探すのは大変なことだったろうね。ありがとう」
「お父さんが言っていた通り、猫さんのお家はいい匂いがするね。またここにきたいな」
小鳥たちは家族みんなでぴるるるる、と歌いました。
「うん、いつでもおいで」猫は鼻をそっと胸にあてました。
↑ここまで
環境が違っても、互いに歩み寄ることができる。
ねことことり、それぞれの視点から見える、幸せの価値とは?
注目の作家・舘野鴻と、細密画家の新生・なかの真実が紡ぐ、心あたたまるファンタジー。
監修者(絵本アドバイザーいぶき)「ねことことり」の見どころ解説
いつもの日常。一人でいることが当たり前だった猫のところに、ある日1匹の小鳥がやってきます。商売道具の小枝を譲ってほしいとお願いする、小鳥。ここから二人の友情が始まります。
猫は小鳥の鳴き声に癒され、小鳥は猫が飲んでいる紅茶の匂いや花の匂いがとても大好きになりました。
出産の準備で忙しい小鳥は、約束の7本目の枝をもらったら、すっかり猫の家に来なくなってしまいました。
猫は小鳥が来なくなったことで、とても悲しい気持ちになりました。
そして、しばらく時が経ち、小鳥が家族を連れて猫にお礼を言いにやってきました。猫のお陰で元気な子供たちが生まれたのです。
友達とは、自分達それぞれの生活がベースにあって、あるタイミングで交差しあるタイミングで離れていく。でも決して相手を忘れたわけではなく、いつも心のどこかで気にかけていて、またタイミングが来た時に再会する。
そんな存在なんだろうなというのがよく描かれた作品だと思います。
この本を最初に見た時、なかの真実さんの細密な絵がとても綺麗だなと感じました。この絵本のすごいところは、見た目だけでなく、物語もとてもよくできているところです。猫の気持ち、小鳥の気持ち、どちらの気持ちもよくわかって、物語にどんどん感情移入していき、心がとても温かくなる、そんな一冊です。大人から子供まであらゆる世代に読んでほしい絵本です。